うつ病でお悩みの方

“うつ病”はもはや珍しい事象ではありません。現代社会においては比較的ありふれた病気になっており、世の中に広く認知され、その情報は溢れています。それによって精神科・心療内科の敷居が低くなって、早期発見・早期治療も可能となってきました。これは精神科医療にとっては間違いなく歓迎すべきことです。

しかし、“うつ病”への理解が広まるにつれて、“うつ病”という病名は曖昧に使われるようにもなってきました。最近では、ちょっとした精神的失調でもすぐ“うつ”といったりします。
“うつ病”とはどのような病なのか、改めて、整理する必要があるようです。

うつ病について詳しく解説
うつ病とは
思考や行動の制止
病相の反復性
病的な状態からの回復
病因から見たうつ病
内因性の精神障害
環境との相互作用
新型うつ病とは
自己の喪失
自己の回復

うつ病とは

“うつ病”は、一般に、気分の障害を基本症状とする精神障害です。ほとんどの場合、反復性があり、通常は、病的な状態から回復することが可能であると考えられています。
原因は、厳密にはまだ特定されていません。脳の働きがある程度関わっていることは間違いないようですが、環境的な要因も大きいとされています。

症状には精神症状と身体症状の両方があります。精神症状は、抑うつ気分や興味・関心の減退、思考制止などです。身体症状はほぼ必ず現れ、食欲不振や睡眠障害など自律神経症状が中心です。そして、それらが多様な組み合わせで出現するので、実像としての“うつ病”は“抑うつ症候群”と呼んだ方が正確です。

▼「うつ病」の症状

精神症状 身体症状
・抑うつ気分
・喜べない
・思考制止
・決断不能
・無気力
・不安
・虚しさを感じる
・無価値感
・絶望
・何ごとも悪く考えてしまう
(自分は病気ではないか、貧乏なのではないか、自分は罪深い存在ではないか、など)
・自殺したいと考える
・気分の日内変動 など

・睡眠障害
(寝つけられない 夜中に何度も目をさましてしまう 朝早く起きてしまう)
・食欲不振
・過食・拒食
・体重減少
・倦怠感
・日内変動(朝調子が悪く、夕方に回復する)
・頭痛
・頭が重い
・締めつけられる感覚
・身体各部の痛み
・動悸
・口の渇き
・嘔吐感
・便秘
・性欲減退
 など 主に自律神経症状

厚生労働省の調査によれば、日本人の生涯有病率は3~7%で、約100万人が“うつ病”に苦しんでいます。ちなみに、男女比は、世界的には2:1で女性の方が多いのですが、日本では概ね1:1といわれています。

▼うつ病人口の変遷(日本)

うつ病人口の変遷(日本)

“うつ病”の基本症状である気分の障害とはどのようなものでしょうか。気分が障害されるという表現は、なんだかしっくりきません。
世の中には心の状態を表す言葉がたくさんあります。気持ち(feeling)、感情(affect)、気分(mood)などです。
気持ちはその時その時どう思ったか、どう感じたかといった主観的な心の動きのことです。感情はいわゆる喜怒哀楽のことで、客観的には情動(emotion)といいます。これらと比べて、気分はもっと背景的で長期的な精神状態を意味します。
それは心の全体的な彩りとでもいえばよいでしょうか。感情と気分の区別は難しいですが、ちょっと冴えない気分のときでも、何か良いことがあれば、ちょっと嬉しく感じたります。気分は、その上でさまざまな感情の変化が起こる土台のようなものだと考えられます。
とはいえ、気分は意識的に変えようと思ってもなかなか変わりません。その変化はむしろ自動的です。睡眠や食欲のリズムと同じように、自律神経が気分を調節しているからです。嬉しいことがあれば良い気分になるでしょうし、嫌なことがあれば悪い気分になるでしょう。何もなければ平常な気分のままです。気分は経験に相応して変化するものです。
ところが、“うつ病”になると経験に相応した気分の変化が起こらなくなります。良いことが起こっても楽しい気分にならず、うつうつとしたままです。それどころか、何も起きていない状態でもうつうつとした気分が続きます。反対に、“躁”のときは、嫌なことがあっても昂揚した気分が持続するのです。
このように、気分の障害とは“経験に相応した気分の変化が起きない状態”を意味します。

思考や行動の制止

経験に相応して気分が変化しないので、“うつ病”になると、晴れ晴れしい場面でも心の中はうつうつとした気分に支配されて晴れやかな方へ動いてくれません。そして、ままにならないのは気分だけではありません。頭の回転もままになりませんし、物事の決断もままになりません。ときに動作もままにならなくなります。

心の様々な面が思い通りに動かず、動かそうとするとブレーキがかかるこのような症状を“制止”といいます。制止は正確には精神運動制止のことで、気分の障害、意欲の低下と並んでうつ病の主症状のひとつです。

制止は、精神活動の停滞なので、現実生活のレベルでさまざまな支障を引き起こします。代表的なものは思考の制止で、例えば、本や書類を読もうとしても内容が頭に入ってこず同じところをただ目でなぞるだけになる、身支度をするときに着る物を選べない、ランチを食べに行っても何を食べるか決められない、入浴や歯磨きなど日常生活において当たり前のことが億劫になる、といったようなことも制止の表れといっていいでしょう。

制止は、単に思考や行動が心身の活動として生じないことをいうのではありません。活動が生起しない一方で、内心では“○○しなければ、○○しなければ”という心理的な急き立てが起こっています。制止の背後には“焦燥”、つまり、焦りが存在しているのです。

動きたくても動けないこの葛藤は非常に苦しいものです。さらに、制止が会社や学校での活動に忍び込んでくると、仕事上のミスや学業不振を引き起こし、結果的に社会的な評価を下げてしまう事態を招くことにもなります。

患者さんの中には、仕事で大きな失敗をしたとか成績が急に落ちたとかいう挫折の結果として、“うつ病”になってしまったと認識している方がかなりいます。
しかし、それは原因と結果が逆です。実際には、既に“うつ病”が潜勢的に始まっていたがゆえに、頭が回らず、いつもはしないようなミスをしたり、通常なら解けた問題を間違えたりしたのです。つまり、原因がうつ病で、仕事上の失敗や成績の急落は結果なのです。

ミスや成績不振を能力不足や努力不足と思って自分を責め続けていた患者さんも、失敗が病気ゆえのことであったと分かると少し楽になるように見えます。

病相の反復性

“うつ病”の平均発症年齢はほぼ40歳で、約半分が20歳から50歳の間に発症するといわれています。20代と40、50代に発症の山があるという説もありますが、まれに、小児や高齢者でも発症します。最近では、10代の発症も少なくないようです。
ちなみに、双極性障害(Ⅰ型)、いわゆる“躁うつ病”の平均発症年齢は約30歳です。

“うつ病”になるとずっと抑うつ状態に苛まれるのかというとそうではありません。抑うつ状態が続くうつ病相、双極性障害ではときに躁状態に陥る躁病相があり、病相の間欠期は比較的普通の精神状態です。うつ病相には個人差があり、6ヶ月から13ヶ月ほど続きます。薬物療法が功を奏しても約3ヶ月は続くようです。
 このうつ病相は多くのケースで反復します。そして、うつ病相は病状が進行するほど長くなる傾向があって、平均すると20年間で5、6回反復するといわれています。

気分の障害と並ぶ“うつ病”のもうひとつの特徴はこの反復性です。最近では、診断上、うつ病相が一回だけの場合と2回以上反復する場合とを区別する傾向にあります。反復性か否かを区別しよういうわけです。しかし、臨床上はほとんどのケースでうつ病相が繰り返されている印象を受けます。

患者さんは初発のつもりで来院されているのですが、よくよく話を聞いてみると、過去にも不調の経験があり、最初のときは病的と呼べるほど重症ではないためなんとなく乗り越えてしまっているようなのです。例えば、比較的自由が利く学生生活の間は、遅刻したり休んだりしても大した問題として扱われず、病気でなくてもサボる仲間はたくさんいるので、抑うつ状態に陥っていたとしても見過ごされてしまいます。
ところが、社会人になると遅刻や欠勤は許されませんし、それが度重なると途端に問題視されます。当人も、自分の勤怠やパフォーマンスを周囲と比較できるので、自分の不調を自覚しやすくなります。

治療の過程で、患者さんには“うつ病”の反復性をしっかり認識してもらうことが重要です。一度“うつ病”になった方には再燃・再発のリスクがあるということです。もちろん、幸運にも二度と病的な状態に陥らずに済む方もいるでしょう。
けれども、“うつ病”の性質が反復するものである以上、可能な限り再燃・再発をさせない取り組みをしておくに越したことはありません。生活リズムを安定させ、規則正しく日常生活を送ることは、その基本中の基本です。

病的な状態からの回復

ところで、“うつ病”からの回復とはどういう意味でしょうか。時々、“うつ病は治る病気”といわれるのを耳にしますが、それは正確ではありません。
“うつ病”は概ね元の状態に回復することが可能であると考えられています。
けれども、日常にありふれている病気や怪我とちがって、“うつ病”の場合は、その回復をそのまま“治癒”と呼ぶことはできません。というのも、先に述べたように“うつ病”は原因が特定されておらず、回復したからといってもそれが取り除かれたわけではないからです。
専門家の間では、原因は除去されていないものの症状がほぼ消失した状態を、治癒と区別して“寛解”と呼ぶようにしています。
“うつ病”からの回復とは、この寛解状態を指します。

もちろん治療が功奏せずに遷延化する場合もありますので、全てのケースが寛解に至るとはいえません。しかし、多くのケースで先に挙げた諸症状が消失し、その人の人柄も元気だった頃にほぼ戻ることができます。この点は、精神科領域におけるもうひとつの主要な障害である統合失調症とは異なります。統合失調症は回復が非常に困難な精神障害です。

“うつ病”からの回復については、いくつか但し書きが必要です。
それはあくまで元の状態に戻ることであって、あらゆるストレスフルな状況に対する耐性がついたり、スーパーマンのように活力が漲ったりするということではありません。
良いことを素直に喜べるようになるのと同じように、嫌なことは嫌なこととして経験するようになるわけで、心がより現実的に動く状態に戻るだけです。
回復に過大な期待を持つと、自分の中の改善を見過ごしてしまうことにもなりかねません。

また、元の状態に戻ったからといって、病気の余波が全くなくなるというわけにはいきません。一般に、現代の“うつ病”の治療は長期に渡ります。
そうすると、その間、本来ならば経験すべきことを断念しないといけなくなったり、先送りしないといけなくなったりします。

例えば、受験期の発症は希望した進学への妨げになるでしょうし、長期の休職は思い描いていたキャリアプランの変更を強いるでしょう。“うつ病”が生活史のどの段階で発症するかは、その人の人生に少なくない影響を与えてしまいます。いずれの場合も、治療期間をいかに短くしていくかが患者さん本人と医療従事者の課題といえるでしょう。

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病因からみた“うつ病”

次に、“うつ病”の原因について考えてみましょう。

精神医学の世界には、原因によって診断しようとする立場(病因論的診断)と症状によって診断しようとする立場(症候論的診断)の二つの診断の仕方があります。前者においては、“うつ病”は統合失調症と並んで内因性の精神障害に分類されます。後者の代表はDSM-Ⅲ以降のDSMやICD-10などで、それに基づくと”うつ病“は“大うつ病性障害”等とそれぞれ診断されます。

また、そもそも精神障害は時代や文化の影響を受けやすいものですが、“うつ病”の場合も例外ではありません。従来のタイプに当てはまらない、いわゆる現代的なタイプの“うつ病”もみられるようになってきました。“うつ病”像が曖昧になってきたのは、こういった事情に拠るところが大きいようです。

病因論的診断と症候論的診断は、同じ病態を異なる視点から捉えるものです。病因論的な考え方は病気を発生的に捉える視点、つまり原因から理解しようとするものであるのに対し、症候論的な考え方は病気を静的に捉える視点、つまり症状からカテゴライズしようとするものです。その点を踏まえていれば混乱は生じません。

ただし、治療は、可能であれば原因に働きかけたいので、臨床上は病因論的な視点が必ず必要になります。

①病因論的診断(いわゆる伝統的診断)
原因、症状、経過、病理、転帰が同一でひとつの病気の単位とみなす。

②症候論的診断(操作的診断)
臨床症状、検査異常値を羅列し、明確な基準を設定。カテゴリー的。

病因論的には、“うつ病”は内因性の精神障害です。もちろん、”躁うつ病“(双極性障害)も同じです。

精神医学は、伝統的に、心因、内因、器質因(外因)の3つの病因を仮定してきました。“仮定してきた”というのは、精神障害の場合は原因をひとつに特定することがなかなかできないからです。

心因は心理・社会的要因、内因は遺伝・体質的要因、器質因は病気や損傷をそれぞれ意味します。しかし、人間は、親からもらった身体でもって、生きるための自己保存活動と社会的存在としての活動を同時に行う複雑な存在なので、どれかひとつを切り離すことはできません。身体に悪いものを摂取したり病気にかかったりもします。
もちろん、器質因の中には原因が特定されているものもあります。しかし、基本的には、ひとつの精神障害には多かれ少なかれ3つの要因すべてが関与していると考えるのが妥当です。
したがって、内因性の精神障害とは、正確には遺伝・体質的要因が他の2つよりも比較的大きい精神障害ということになります。

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内因性の精神障害

では、内因とはどのような意味でしょう。内因性とはもともと“内部から発生する”という意味です。遺伝・体質的要因と言い換えると分かった感じになりますが、すっと納得できない人も多いのではないでしょうか。

私たちの身体には個人差があります。身長や体格はその代表例です。それと同じように、汗かきだったり、胃が弱かったり、血圧が高かったりといった体質も人それぞれです。そして、汗かきや血圧が高いのは“親譲り”であることを誰もが知っています。

身体の性質は、量的な差こそあれ、親から受け継ぐものです。親から子に受け継がれるものを遺伝といっているので、体質は遺伝によって決定されるというのは理解できるでしょう。
脳も身体の器官のひとつである以上、体質があります。そして、おそらく、うつ病になりやすい体質というものがあるのです。

もちろん、脳に関しては明らかになっていないことのほうが多いのであくまで仮説の域を出ませんが、それでも信憑性の高い仮説です。例えば、セロトニンは“うつ病”に関わる神経伝達物質で、その代謝量の少なさが“うつ病”と関係していると考えられています。

SSRIなどの抗うつ薬の多くがセロトニンの代謝量増加を目指しているのはそのためです。ということは、つまり、汗をかきやすい体質の人や胃酸の分泌が少ない体質の人がいるのと同じように、セロトニン代謝量が生まれつき少ない体質を持った人がいるということです。

急いで付言しますが、遺伝といっても、“うつ病”になりやすい体質の遺伝子がひとつあるということではありません。ひとつひとつでは影響力の小さな遺伝子がある一定の割合で集まったときに、そのような体質が形成されるだろうということです。 生物学的にみると、“うつ病”は多因子多遺伝子疾患なのです。

環境との相互作用

では、“うつ病”になりやすい体質を持っていると必ず“うつ病”になるかといえば、そうではありません。“うつ病”の一卵性双生児一致率は50%といわれています。
ということは、遺伝情報が全く同じでも、一方が“うつ病”になったからといってもう一方が必ずなるとは限らない、ということです。この辺が、内因性の理解を難しくしているのでしょう。

私たちは、親からもらった体質をもって生まれてきますが、当然のことながら、ただじっとして成長するわけではありません。生き物である以上、置かれた環境に働きかけ、環境から働きかけられて生きています。これを環境との相互作用といいます。

私たちにとっての環境とは、家庭、学校、職場などの社会的環境です。そこには、“うつ病”を誘発しやすい刺激というものもあるでしょう。高血圧が比較的塩分の高い食生活によって準備されるように、”うつ病”を引き起こしやすい状況や刺激があっても不思議ではありません。

ただし、“うつ病”を引き起こしやすい刺激は特定されているわけではありません。また、過重労働や不規則な生活といったような、明らかにストレスフルな刺激とも限りません。日常生活の中に転がっているごく普通の刺激もその要素を持っているのです。ありふれた人間関係の煩わしさ、ありふれた仕事や家事の負担、ありふれた人生の転機など、ありふれた刺激が“うつ病”を引き起こす力を持っているともいえるでしょう。

“うつ病”になりやすい体質とは、このような刺激に対して感受性が高い体質ということです。そのような体質を持っている人は、平均的な体質の人が鈍感に受け流す刺激であっても、敏感に感じ取ってしまいます。

しかし、その時の対応の仕方、つまり、相互作用の仕方には個人差があります。“うつ病”になりやすい体質を持っていても、“うつ病”になりにくい対応をする人もいるでしょう。“うつ病”の発症は、“うつ病”になりやすい体質の人が、“うつ病”になりやすい環境との相互作用を続けた結果なのです。

さらに言えば、“うつ病”になりやすい体質的要因が大きい人は、至って平均的な環境であっても“うつ病”になってしまうかもしれません。一方で、その要因が小さい人であっても、“うつ病”を引き起こしやすい環境的要因が大きければ発症することもあるでしょう。

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“新型うつ病”とは

最近よく耳にする“新型うつ病”とは、現代という時代の環境的要因をある程度反映したものでしょう。

我が国で新しいタイプの“うつ病”が報告されるようになったのはここ30~40年のことです。この間に人類の体質が劇的に変化したとは考えられません。

一方で、私たちを取り巻く社会のあり方、価値観、ライフスタイルなど広義の環境は急激に変化してきました。従来型の“うつ病”を生んできた社会と“新型うつ病”を生み出す現代社会とは、漸次変化したきたにせよ、同じとはいえません。
思いつくままに挙げると、就業時間は長くなりましたが、娯楽の時間も長くなり、睡眠時間は短くなりました。社会的な抑圧は弱くなり、個人の自由が相対的に尊重されるようになりましたが、その分、和は軽視されるようになりました。
衣食住に関するストレスは飛躍的に低減し、通勤通学も随分便利になりましたが、なぜか生活に追われる毎日です。インターネットの普及によりよって情報は溢れ、コミュニケーションツールは発達しましたが、人間関係の軋轢は増えています。

もちろん、このような変化の何が“新型うつ病”の決定因なのかを特定することはできません。現代においても、典型的な従来型“うつ病”の方もいます。そもそも“新型うつ病”が従来の“うつ病”と同じものであるのか、それとも異なるものであるのかについても議論を要するところです。とはいえ、全体的にみて、“うつ病”という病気の姿が変わってきていることは間違いありません。

逃避型抑うつ ※1

エリートサラリーマンに見られ、典型的には30歳前後で発症する、抑制が主体の抑うつ。平日の朝は起きられないが、午後や週末には自分の趣味や家族サービスが出来る点で従来のうつ病と異なる。困難な状況で問題解決をすぐに諦め、不安・苦悩のない抑うつに逃避し、仕事に対しては意欲を失う。自責的、他責的になることは少ない。

現代型うつ病 ※2

従来の“うつ病”の病像が現代的に変化したものという意味。従来型と比べて軽症化している点に着目している。若いサラリーマンに比較的多く見られ、組織への一体感や忠誠心が希薄で、仲間意識も乏しく、仕事熱心ではない。負荷が増大する状況で症状が顕著になる。趣味などには強迫的に取り組む。

未熟型うつ病 ※3

成人前期に発症する双極性障害の一型。職業上の挫折や私生活上の困難によって思い通りのライフスタイルを維持できない事態を発症契機とすることが多い。不安焦燥が強く、他者への依存と攻撃を示す。要求が容れられない状況で依存的になり、依存が受け入れられないと攻撃的になる。自己中心的、自己顕示的で自己評価が過大である。

※1:広瀬徹也:“逃避型抑うつ”について.宮本忠雄編:躁うつ病の精神病理,2.弘文堂,東京,1977.
※2:松浪克文,山下喜弘:社会変動とうつ病.社会精神医学,14;193-200,1991.
※3:阿部隆明,大塚公一郎,加藤敏:“未熟型うつ病”の臨床精神病理学的検討.臨床精神病理,16;239-248,1995.

いわゆる従来型の“うつ病”は“メランコリー親和型”と呼ばれます。
メランコリーmelancholiaとは古代ギリシャ時代の体液説における“黒胆汁”を意味する、“うつ病”の古い名称と理解してください。

一方の“新型うつ病”は“ディスチミア親和型”と呼ばれて対比されます。ディスチミアdysthymiaとは“気分の良くない状態”“不機嫌”を意味する古代ギリシャ語に由来します。診断名としては“気分変調症”に使われていますが、“ディスチミア親和型”の方はあくまで“うつ病”のひとつのタイプです。

“メランコリー親和型”はテレンバッハ(※4)によって提唱された“うつ病”の類型です。性格的な特徴として几帳面、律儀、強い責任感、他者への配慮が顕著で、その本質は秩序結合性と高い自己要求にあります。

“うつ病は真面目な人がなる病気”という世間の認識はこれに拠るところが大きいでしょう。一方、“ディスチミア親和型”は、樽味伸(※5、6)によってまとめられた“メランコリー親和型”の特徴を満たさない“うつ病”の類型で、“逃避型抑うつ”や“未熟型うつ病”と相互に重なるところがあります。

いまだに根強い“うつ病は怠け病”というような無理解はこれの一側面を根拠にしているのかもしれません。

※4:Tellenbach H:Melancnolie ;Zur Problemgesichte,Typologie,Pathogenese und Klinik. Spinger,Berlin,1961(木村敏訳:メランコリー 改訂増補版.みすず書房,東京,1985).
※5:樽味伸:現代社会が生む“ディスチミア親和型”.臨精医,34;687-694,2005.
※6:樽味伸,神庭重信:うつ病の社会文化的試論――特に“ディスチミア親和型うつ病”について.社会精神医学会雑誌,13;129-136,2005.

表2.メランコリー親和型とディスチミア親和型

メランコリー親和型 ディスチミア親和型
年齢層 中高年層 青年層
関連する気質 執着気質
メランコリー性格
スチューデント・アパシー
退却傾向と無気力
病前性格 社会的役割・規範への愛着
規範に対して好意的で同一化
秩序を愛し、配慮的で几帳面
基本的に仕事熱心
自己自身(役割抜き)への愛着
規範に対して“ストレス”と抵抗する
秩序への否定的感情と漠然とした万能感
元々仕事熱心ではない
症候学的特徴 焦燥と抑制
疲弊と罪業感(申し訳なさの表明)
完遂しかねない“配慮した”自殺企図
不完全と倦怠
回避と他罰的感情(他者への非難)
衝動的な自傷、一方的で“軽やかな”自殺企図
治療関係と経過 初期には“うつ病”の診断に抵抗
その後は“うつ病”の経験から新たな認知
“無理しない生き方”を身につけ、新たな役割意識となりうる
初期から“うつ病”の診断に協力的
その後も“うつ病状”の存在確認に終始しがちとなり“うつの文脈”からの離脱が困難、慢性化
薬物への反応 多くは良好
(病み終える)
多くは部分的効果にとどまる
(病み終えない)
認知と行動特性 疾病による行動変化が明らか
“課長としての私”から“うつを経験した課長としての私”へ
(新たな役割意識を獲得)
どこまでが“生き方”でどこからが“症状経過”か不分明
“(単なる)私”から“うつの私”で固着し、新たな文脈が形成されにくい
予後と環境変化 休養と服薬で全般に軽快しやすい
場・環境の変化は両価値である
(ときに自責的となる)
休養と服用でしばしば慢性化
おかれた場・環境の変化で急速に改善することがある

自己の喪失

“メランコリー親和型”と“ディスチミア親和型“は一見すると異なる精神障害のようです。確かに、抑うつを中心とする症候群としては同じなのでしょうが、その出現の仕方や程度は一致しません。もしかしたら本当に異なるものである可能性もあります。それでもやはり専門家は両者を同じ”うつ病“と捉えています。
例えば、光トポグラフィー検査で共通のパターンが見られるならば、それはその同一性を支持する自然科学的な材料となるでしょう。

また、一般に、“うつ病”は人生の転機を発症契機とすると考えられています。転居、転勤、昇進、進学、結婚、出産、引退、子どもの結婚、近親者の死亡といったような大きなライフイベントはまさにこれに相当します。その内容が幸か不幸かは関係ありません。ちなみに、発症契機とは、原因ではなく、病状が表に出てくるきっかけを意味します。

こういった転機で、私たちはそれまでの役割を捨て、新しい役割の自分を始めなければなりません。たとえば、卒業では学生が社会人になり、結婚では独身から既婚者になり、昇進で平社員は管理職になります。それは希望に満ちた前向きな瞬間です。

しかし、それは同時に、慣れ親しんだ、愛着のある、周囲からも受け入れられていたそれまでの自分が終わるときでもあるのです。これを大切なものを失う対象の喪失に準じて表現するなら、“自己の喪失”といえるでしょう。

それまでの役割や立場で経験と実績を積んだ、内実のある自分は喪われ、ほとんど経験のない、いってみれば肩書きだけで中身は空っぽの自分が始まるわけですから、人生の転機に臨んだ人の心の裡では、多かれ少なかれ“自己の喪失”が起こります。マリッジブルーや燃え尽き症候群などは、結婚や引退に伴って起こるよく知られた心の変化です。

“うつ病”の場合は、従来型であれ新型であれ、この喪失の心情が潜在的に始まっている病的な精神状態と符号してしまうのでしょう。“うつ病”によって心身のエネルギーが低下していた自分と、実生活上の自分との一致が起こるわけです。

ただし、メランコリー親和型とディスチミア親和型とでは“自己の喪失”の起こり方に質的な違いがあるようです。メランコリー親和型では、その場を支配する秩序に同調しすぎることによって“自己の喪失”が起こります。職場や学校の規範、文化、雰囲気、社会的な慣習、習慣、ルール、あるいは人間関係上の常識、倫理、マナーなどに合わせすぎるために、言動の自律性や主体性が失われてしまうのです。人生の転機に際しては、環境とともにそこに同調している自分も失われてしまいます。

一方、ディスチミア親和型では、“自己の喪失”は自己愛的な自己像が現実に直面して傷つくという形で経験されます。挫折を知らずに成長すると、転機の度に、社会の中で自分の実力ではどうにもならない現実に晒されることになります。そこで顕わになるのでは、なんでも上手くこなせるはずの自分ではなく、それほどでもない自分です。こうして、万能感に満ちた“自己の喪失”が起こるのです。

自己の回復

“自己の喪失”を準備する心理的な条件は、現実の自分の否認です。自分の極端な過小評価、あるいは過大評価によって現実の自分は忘れさられているのです。その代わりに、メランコリー親和型では周囲の秩序に対する過剰な尊重が認められ、ディスチミア親和型では過度に理想化され自己像への同一化が起こっています。

どちらにおいても、良いところもあれば悪いところもあり、上手くいったり上手くいかなかったりする、等身大の自分が省みられていません。

“うつ病”からの回復に伴い、患者さんの中で現実の自分は回復していきます。それは、言い換えるなら、過不足はあるが、主体的で自律的な自分を引き受けるということではないでしょうか。


【参考文献】

・広瀬徹也,内海健編:うつ病論の現在――精緻な臨床をめざして――.星和書店.2005.

・加藤敏,神庭重信ほか編集:現代精神医学事典.弘文堂,2011.

・Sadock J.B,Sadock A.V:Kaplan and Sadock’s Synopsis of Psychiatry: Behavioral Sciences / Clinical Psychiatry, Ninth Edition. Lippincott Williams & Wilkins,2003(井上令一,四宮滋子監訳:カプラン臨床精神医学テキスト 第2版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,2004)

・内海健:うつ病新時代――双極Ⅱ型障害という病――.勉誠出版.2010.

・山下格:精神医学ハンドブック――医学・保健・福祉の基礎知識――第7版.日本評論社.2010.

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